展覧会の構成と見どころ
第1章公共のアート
1978年、故郷のペンシルベニア州からニューヨークに移ったヘリングは、絵画だけでなく映像やインスタレーションなど多様な美術表現を学びながら、美術館など従来の展示空間に飽き足りず、公共空間でアートを展開する方法を模索しました。中でも、人種や階級、性別、職業に関係なく多くの人々が利用する地下鉄に注目。「ここに描けばあらゆる人が自分の作品を見てくれる」と、駅構内の空いている広告板に貼られた黒い紙にチョークでドローイングを描きました。シンプルな線で素早く描き出された人間や動物から宇宙船に至るまでの自由奔放なイメージは、多くのニューヨーカーの心と記憶に刻み込まれました。
《無題(サブウェイ・ドローイング)》1981-83年
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第2章生と迷路
1980年代のニューヨークは、HIVの蔓延が社会に暗い影を落としつつありましたが、ペンシルベニア州ピッツバーグから移ってきたばかりのヘリングにとっては、日々新しい文化が生み出されゲイカルチャーも盛り上がる自由で刺激的な場所でした。混沌としながらも希望に溢れるこの街で解放されたヘリングは、生の喜びと死への恐怖を背負いながら、自らのエネルギーを創作へと注ぎ込んでいきます。
《無題》1983年
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第3章ポップアートとカルチャー
アメリカが経済不況にあった1980年代、ニューヨークは現在以上に犯罪が多発する都市として知られており、ドラッグや暴力、貧困がはびこる状況にありました。それでもクラブ・シーンは盛り上がり、ストリートアートが隆盛を極めます。特に、ヘリングにとってのクラブは、踊りと音楽に酔いしれるだけではなく、創作のアイデアが湧き出る神聖な場所でもありました。多様な文化が混ざり合う環境で、ヘリングは舞台芸術や広告、音楽などと関わりながら制作の場を広げていくことになります。本章で紹介する幅6メートルに及ぶ『スウィート・サタデー・ナイト』のための舞台セットは、ダンサーが踊るように描かれており、実際にこの作品の前でブレイクダンスが披露されました。
『スウィート・サタデー・ナイト』のための舞台セット1985年
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第4章アート・アクティビズム
ヘリングは大衆へダイレクトにメッセージを伝えるため、ポスターという媒体を使いました。題材は核放棄、反アパルトヘイト、エイズ予防や性的マイノリティのカミングアウトをテーマとする社会的なものから、商業的なものまで100点以上にも及びます。
アートの力は人の心を動かし世界を平和にできると信じていたヘリングは、ポスターだけでなくワークショップや壁画といった多くの媒体を使ってメッセージを送り続けました。
楽しさで頭をいっぱいにしよう!本を読もう!1988年
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第5章アートはみんなのために
アートを大衆に届けたいと考えたヘリングは、自身がデザインした商品を販売するアート活動・ポップショップや、世界の都市数十ヶ所で制作された彫刻や壁画といったパブリックアートなどを通して、彼らとのコミュニケーションを図りました。本章のメインとなる《赤と青の物語》にもヘリングのそのような思いが反映されています。本作は、絵画の連なりから1つのストーリーを想像させ、子どもだけでなく大人にも訴えかける視覚言語が用いられた、ヘリングの代表的な作品のひとつです。
《赤と青の物語》 1989年
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第6章現在から未来へ
1988年にエイズと診断されたヘリングはその後、死を意識ながらも最後まで自らの思いを未来へとつないでいこうとしました。本章では、最後の個展に出品された三角形の変形キャンバスによる大作《無題》のほか、ヘリングの最もポピュラーなモチーフのひとつである「ラディアント・ベイビー」を含む《イコンズ》、22歳の頃のドローイングを17点からなる大画面の版画にした《ブループリント・ドローイング》といった、1990年に亡くなる直前に制作された作品を中心に紹介します。
《無題》1988年
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スペシャル・トピックキース・ヘリングと日本
日本に対して特別な想いを抱いていたヘリングが初来日したのは、今からおよそ40年前の1983年。東洋思想や書は以前よりヘリングに影響を与えており、来日の際は扇子や掛け軸など日本特有の品々に墨を用いたドローイングを制作しました。1988年にはヘリングがデザインしたグッズを販売するポップショップ東京を青山にオープンし、大きな話題を呼びます。本展では、茶碗や扇子などポップショップ東京のために制作された代表的なアイテムを紹介します。
ポップショップ東京で販売された扇子1988年
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すべて中村キース・ヘリング美術館蔵
All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation
■巡回展の最終会場です!
23年ぶりの国内巡回個展として1年以上にわたって全国5会場で開催してきた「キース・へリング展アートをストリートへ」。当館はその最終会場となります。キース・へリングの貴重な作品を一堂にご覧いただけるこの機会に、ぜひ当館にお越しください。
■音声ガイド
俳優の磯村勇斗さんが、初めて音声ガイドに挑戦!キース・ヘリングの人生と作品の魅力について、わかりやすくご案内します。
アプリ配信:料金700円(税込)
磯村勇斗(いそむら・はやと)
1992年9月11日生まれ、静岡県出身。2017年、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』で話題に。映画『月』、『正欲』に続き、2024年には主演映画『若き見知らぬ者たち』が公開。
■グッズ販売
本展のためだけにデザインされたアイテムや、お土産にぴったりなお菓子など展覧会オリジナルグッズが登場!展覧会のロゴや、へリングの作品があしらわれた特別なグッズをはじめ、ヘリングのアイテムが勢ぞろい。特設ショップで是非お手にとってみてください。
■会場での写真撮影
「スペシャル・トピックキース・ヘリングと日本」を除いて、来館者による写真撮影が可能です(動画は不可)。
■ワークシート
キース・ヘリングの作品を本展で初めてご覧になる方のための、入門編ワークシートです。
キッズでも、大人でも、アート初心者でも楽しめる内容です!
ワークシートをプリントアウトして会場へお持ちいただき、作品を探しながらの鑑賞もできます。宝探しをするキッズのように作品の素材やサイズの違いを感じたり、「光る赤ん坊」(通称ラディアント・ベイビー)を見つけたりしてください。
さらに、出品作《赤と青の物語》で描かれている場面を元に、ストーリー作りの遊びを楽しめる仕掛けも。本作は20枚からなる子ども向けの作品で、ストーリーのない絵本とも呼ばれています。アメリカでは物語創作コンテストなどの教育プログラムでも採用されています。小さなお子さまはもちろん、大人も一緒に物語を想像してみませんか?
キース・ヘリング展 アートをストリートへ